Peace Ex Piece

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鳩とオリーブの葉、付け加えるとするなら人間か 第18話 かっこいい男とは?

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本作品の内容はフィクションです。
登場する人物・団体・地名等は架空のものであり、実在する人物・団体等とは一切関係がありません。

また本作品には過激な表現が含まれておりますが、犯罪にあたる行為など実際に行われますと、刑法により厳重に処罰されますので絶対に真似しないでください。

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第18話 かっこいい男とは?

 

 僕は、咲希にフラれてから必死に理由を探した。

 『私はきっと誰も好きにならない。誰とも付き合わないの』

 そんな人間が果たしているのだろうか?

 いやいるわけがない。

 僕はそう思う。咲希は、友達が多い。誰にでも優しい。いつも笑顔を振り撒いている。確かにそういう女の子は、モテるだろう。だが女からは嫌われるだろう。

 よくある話だ。ドラマでもアニメでも友達の想い人が自分に告白してくる。自分は、興味がないのでそりゃもう素っ気なく告白を無下にする。そして友達が気づく。いじめの始まりだ。

 それが咲希にはなかった。何故かと言うと完璧過ぎたのだ。

 咲希は、勉強が出来た。スポーツが出来た。友達の困ったことは、ほとんど解決できた。しかもお世話な性格で友達でもない人が困っているのを嗅ぎ付けては、解決していった。仲間が多すぎた。

 そんなパーフェクトウーマンに恋に落ちないほうがおかしい。僕が咲希に告白したのは、昨日だ。中学二年生の春である。青春がしたかったのだ。初恋の相手と。

 『僕と付き合ってほしい。咲希ねぇのことをもうただの幼なじみに見れない』

 僕は、それなりに勉強もスポーツも出来る。顔もそれなりだ。中学生ってのは、思春期と反抗期が重なるので複雑だ。だからなぜか強気にもなったりする。

 『優人は、弟みたいなものだよ。それ以下でも以上でもないの』

 だからフラレるなんて思わなかった。

 

かっこいい男とは?2

 

 高校生になった。咲希は、一つ上の学年にいる。僕は、モテると言われるサッカー部に入部した。それはもうモテたさ。いくら女の子をとっかえひっかえしたって誰も文句は、言わなかった。

 いや一人だけ言ったな。

 『楽しい? ならいいけど。一言だけ言わせて。カッコ悪い』

 そう咲希は、言った。

 僕のどこがカッコ悪いというんだ?

 わからない。最高にカッコいいじゃないか。

 カッコ悪いと思うのは、咲希だけだ。そう自分に言い聞かせた。

 

かっこいい男とは?3

 

 大学生になった。僕の人生は、充実している。このままエリート街道を辿るのも悪くない。そう思っていたら天から光が降り注いだ。僕は、その光に包み込まれた。

 『なんて心地いいんだ。僕は神にさえ愛されているのか』 

 次の瞬間、僕には人間とは、思えないほどの超パワーが扱えるようになった。

 先日、大学で一番可愛いと評判の女の子を彼女にしたところだ。その女の子は、僕から手を出さずとも告白してくれた。付き合ってた女の子には。

 『他に好きな子が出来たから別れて』

 と言った。ビンタしてこようとしたが。遅すぎたのでかわした。

 『すぐ暴力に訴えようとしてくる女って本当に女かよ。本当の暴力を教えてやろうか?』

 脅したら泣いてどこかにいった。

 全部思い通りになる。そんな俺のどこがカッコ悪いんだ? わからない。

そんな僕の目の前にやつは、現れた。

 

かっこいい男とは?4

 

 『ちょっとそこのお前。なに咲希の横歩いてんの?』 

 どうして咲希と歩いてる。気にくわない。

  『優人じゃん! 久しぶり!』

 黙ってろ。

 『咲希さ? 誰とも付き合わないんじゃなかったの? 俺を振る口実だったわけ?』

 俺とは、付き合わず。他の男と付き合う? バカにするなよ。

 『……』

 黙りやがった。女は黙れば許されると思ってやがる。

 『ユウトだっけ? 咲希さんめっちゃ困った顔してるぜ? 女の子困らせるの良くないんじゃないのか? 隣にいる女の子暇してるぜ?』

  なんだこいつ? 明らかに舐めてるな。男としての格の違いをここで見せておくか。

 『こいつは遊びだよ』

 大学で一番の女を遊びだという僕は最高にカッコいいな。

 『ひどい!優人!ねぇ冗談だよね?』

 お前にもう用はない。

 『なわけないだろ? 消えろブス』

  邪魔だな。

 『あっ……ひぐっ……あああああああ』

 また泣けば許されると思ってる。自分が被害者。そう思えばどんなことでも楽になる。

 『お前さユウトって言ったな? 字で書くと優しいに人か?』

 バカなのか? こいつ。

 『そうだよ? 優しいに人で優人』

 優しく教えてやらないとな。バカを見ると虫酸が走るんだけどな。

 『お前さ完全に名前負けしてるぜ。くずやろう』

 なんだと? 

 『ケンカ売ってるの? 買うよ?』

 僕に勝てると思ってるの? 天からの力がなくても余裕だね。

 『売ってるに決まってるだろうが!』

 威勢がいいな。叩き落としてやりたい。土下座でもさせて靴でも舐めさせるか。

 『こうちゃんだめ!ユウトは運動神経抜群でしかも頭もいいし金もちだし……勝てないよぉ』

 ちゃん付け? 腹が立つな。

 『男のケンカに女が口挟んだらダメなんだぜ。知らなかったのか?』

 わかってるじゃないか。

 『橋の下っていったらわかるな? 18時だ。逃げるなよ』

 『話がわかるようで結構だ』

 どんなにカッコつけようと僕の前では、無力だよ。僕が眩しすぎてお前の存在なんかすぐ霞む。

 

かっこいい男とは?5

 

 はずだった。僕なんてかっこよくなかった。僕は、僕以外をカッコいいと思ったことがなかった。それなのに目の前で僕を倒した男をカッコいいなどと思ってしまうなんて。僕は、他人を真の意味で認めたことなんてなかったのだろう。でも今は違う。

 『弟子にしてください! 先輩!』

 カッコいい男になりたい。そのためについていこうと思った。この人に。

 これが僕と先輩の出会いだった。

 

かっこいい男とは?6

 

 ずぶ濡れのまま家に帰ってきた……。

 光一「明日も仕事か……。最悪だな……。初めて保育園に行きたくないっておもったんじゃないのかな……俺……」

 誰も答えてはくれない。ピースも寝ているようだ。

 光一「ははっ……はははははは……」

 何故か笑えてくる……。可笑しくなってしまったみたいだ……。

 光一「どんな顔して会えばいいんだよ……」

 もう寝よう。考えても答えなんて出ない。

 光一「会わす顔なんてないのにな……。仕事は、いかなきゃ……」

 

かっこいい男とは?7

 

 保育園についた俺は、驚愕した。

 下駄箱に何かある。オシャレな袋だ。

 そして思い出す。

 光一「ユウトに買ったプレゼント……。どこにやったっけ……」

 せっかく買ったのに。あいつと。

 オシャレな袋の中身を見る。

 中にはプリンと保冷剤と手紙。なにか書いてある。

 『ごめんなさい。こうちゃんの言葉は、本当に嬉しかったです。こんな私を好きになってくれてありがとうございます。でも私は、こうちゃんの好意を受け取れません。どうかそんな私を許してください。そしてこれからも仲良くしてください。こうちゃんと仲良く出来ないなんて嫌なんです。私は私のままでいるべきだしあなたはあなたのままでいるべきです。だから私を諦めてください。こんなことを書くべきではないのかもしれません。だってこうちゃんが悲しむと思うから。それでも書くのは友達でいたいから。元気を出してください。笑顔のこうちゃんが一番好きな咲希より。

追伸 プリン食べて元気出してね!』

 見なければよかった……読まなければよかった……。

 光一「あぁ……うっ!」

 涙が流れてきた。なんで枯れてくれないだよ! 吐き気までする……。

 気づけば走っていた。逃げるように。

 

かっこいい男とは?8

 

 家についた俺は保育園に電話をかけた。

 光一「もしもし神城です。体調が悪いので休みます。勝手をいってすみません」

 園長「ゆっくり休みなさい」

 光一「はい」

 罪悪感が込み上げる。最低だ。

 オシャレな袋は、あいつの下駄箱に置いてきた。受けとるわけにはいかなかった。

 

かっこいい男とは?9

 

 俺の携帯が着信音を鳴らしている。うるさい。寝かせてくれよ。時計を見るともう夜になっている。

 光一「誰だよ」

 携帯を見るとユウトからの着信だった。

 光一「もしもし。なんだ?」

 ユウト「今ですね。先輩の家の前にいます」

 光一「ストーカーかよ」

 ユウト「上がってよろしいでしょうか?」

 光一「好きにしろ」

 会いたくなんかないけどな。断るのは気が引けた。なんとなく。

 

かっこいい男とは?10

 

 光一「悠愛もいたのかよ」

 家に上がってきたのはユウトと悠愛だった。二人を居間に座らせお茶を出した。

 悠愛「ゆぅあがぁ~パパの家にくる理由は一つ! それはパパとひとつに」

 睨む。

 悠愛「今日のパパ……怖いよ……」

 怖くないさ。ただ泣き袋が腫れているだけだ。目も充血してるだろう。鏡は見たくない。

 光一「自分のことゆぅあとか可愛く呼ぶなよ。まぁおっさん相手になら可愛く聞こえるか……」

 言葉に毒が混ざる。

 光一「ごめん。調子が悪いんだ」

 嘘じゃない。雨に打たれ過ぎたのか風邪気味だ。

 ユウト「すいません! でもお礼がいいたくて!」

 お礼?

 光一「俺がなにかしたか?」

 ユウト「これですよ! プレゼント! 咲希ねぇと買ってきてくれたんですよね! ありがとうございます!」

 ユウトが持っているのは紛れもない俺とあいつが買ったプレゼントだ。

 光一「どうして……それを……」

 ユウト「咲希ねぇが渡してくれましたよ? 先輩は直接渡すの恥ずかしいからって」

 それは嘘だ。嘘をつかせたのか……。俺が……。

 ユウト「スリッパとブランケットとハンカチと香水とか凄いオシャレです! 八回戦って! 笑っちゃいましたね! やっぱり先輩は最高ですよ!」

 言葉が痛い。突き刺さるんだよ。言葉も眼差しも……。やめてくれよ……。

 光一「帰ってくれ」

 ユウト「えっ」

 悠愛「パパ……」

 光一「まともに座ってもいられないんだ。ごめんな」

 

かっこいい男とは?11

 

 二人は帰って行った。

 光一「こんな自分は嫌だ。嫌いだ」

 明日はしっかり仕事に行こう。じゃなきゃ壊れる。

 

かっこいい男とは?12

 

 「おはよう……こうちゃん……来てくれたんだね……」

 保育園で会ったあいつは、普通に……挨拶してきた。

 全然普通じゃない。元気ない…。でも俺は。

 光一「……」

 無言で通りすぎるしかなかった。 手紙があれだからな。だんだん字が汚くなっていた。途中で泣いたんだろうか。最初から泣きながら書いたのだろうか。でもそれは俺の想像でしかない。

 

 それから何日たった? わからない。

 

 「おはよう……今日はなにして遊ぼうか?」

 無視する。

 

 「ばいばい……。今日は話してくれなかったね……」

 無視する。

 

 「おはよう……今日はピアノ引くよ……」

 無視する。

 

 「ばいばい……ダメだよ……園児達が心配してる」

 無視する。

 

 「おはよう……今日はプリン食べれるよ! 私のは食べてくれなかったね……」

 無視する。

 

『咲希が光一お兄ちゃんに告白してフラれて泣いてるの。滑稽でしょ?』

 しゅんくんの似顔絵を思い出した。逆になったな。滑稽だろ?

 

 「ばいばい……もうプリン食べても笑顔になってくれないんだね……私のせいで……」

 無視……

 光一「違う……」

  それだけは譲れない。 

 光一「自業自得だから……俺のさ」

 

かっこいい男とは?12

 

 家に帰って寝る前にテレビをつけた。アイドルの美姫がバラエティー番組に出ている。

 『皆さん今日も笑ってくれましたか? 来週も笑わせますよ? ゲストの美姫ちゃん! ありがとねぇ!』

 司会が番組の締めくくりをしている。

 『ちょちょちょぉー! ちょっと待ってください! ドラマの告知しまーす! 最終回間近なんですけどね~! このチャンネルで21時だよ! 観てね!』

 告知もしっかりね。よくやる。

 『泣き顔に注目かな?』

 司会が言う。

 『最近ですねー。上手くなったって言われるんです。いいことなのかわるいことなのか』

 俺に対する追い討ちかよ……。知らねぇよ。

 寝るか。

 着信音が鳴っている。俺の携帯だ。またユウトか? 

 博士だ。何かあったに違いない。嫌な予感がする。

 光一「何があった」

 単刀直入に聞く。

 博士「となり街の遊園地が襲われておる! 一般人の能力者が応戦しておるが勝ち目がない! 劣勢じゃ! このままだと」

 光一「俺には関係ない」

 ブツ。電話を一方的にきった。寝るとしよう。

 

かっこいい男とは?13

 

  ここは遊園地。だった場所だ。今では戦地と化している。

 「諦められるか! 後ろには俺の女房と子供がいるんだ」

 男は、目の前にいる騎士のように見えるものとピエロに見えるものの大群を目にして言った。隣には、ジャックと名乗った男がいる。

 「情熱家より、冷淡な男のほうが簡単に女に夢中になるものだがな……男が炎のように燃えさからなくてどうする。降りかかる火の粉を己の炎にて飲み込んでしまえ!」

 ジャックは、情熱家だとは思うがいい男だと妻と子供を持つ男は思った。

 だが劣勢に変わりはない。遊園地が謎の襲撃を受けてから随分と時間がたった。観覧車のあった場所など火の海だ。爆発したのだろう。たとえこの肉体強化的な能力があったとしても自分より強い相手が大勢いた場合には、役をなさなかった。

 「戦地では幾度となくもう終わりだ……などと思ったが今回は本格的に終わりかもしれない」

 ジャックすら弱音を吐く。こんな屈強な男ですら。

 今でもこの遊園他内では人間であり人間を越えた力を持つもの達が奮闘しているだろう。

 愛する友、妻、子供を守ろうと必死なはずだ。だが……相手が悪い。

 男は後ろで震えている妻、子供に向かって言った。

 「必ずお前達を守って見せる」

 満身創痍ながら男の目は、輝いていた。

  無情にも敵が近づいてきている。希望を絶望に変質するのも時間の問題かもしれない。

 

かっこいい男とは?14

 

 だが。状況に変化が訪れた。敵の大群が弾けた。

 「なんだ? 何が起こった?」

 男はそういった。

 「遅いじゃないか。それでこそ男だ」

 ジャックは、悟ったように言った。

 大群が弾けた爆心地は、煙に包まれている。爆煙から声が聞こえる。

 「気づいたらここにいた」

 二人には雑音などもう聞こえない。

 「戦っていた。俺には関係ないのに」

 ただ一人だけの声がこだまする。

 「助けてってさ。聞こえたんだ。気のせいかもしれないけどな。ただ……変われない。変わりたくないって思ったんだ……」

 声は若い。だがどこか達視したような声。どこか優しい声。

 「救いを求める声を誰が無視出来るって言うんだよ! 知らねぇ……知らねぇよ! 俺だけは、無視できない! 」

 煙は晴れた。爆心地には青年が立っていた。色素の抜けた金髪にネックレスとピアスが印象的な青年。どこにでもいる若者だ。

 

 だがその眼光、眼差し、顔つき、様々な要素から普通ではないことがわかる。

 

 「あはははは! 最高にカッコいいぞ! 青年! 実に俺好みの展開じゃないか!」

 ジャックは言った。

 「カッコいい男。英雄は遅れてくるもんなのか? 笑えるな。もっと速くこいよな。待ちくたびれたぜ」

 青年は、答える。

 「待っててくれなんて頼んでないぜ? ただ無視できなかっただけだ」

 

 

 

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