鳩とオリーブの葉、付け加えるとするなら人間か 第9話 男には譲れないものがある
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本作品の内容はフィクションです。
登場する人物・団体・地名等は架空のものであり、実在する人物・団体等とは一切関係がありません。
また本作品には過激な表現が含まれておりますが、犯罪にあたる行為など実際に行われますと、刑法により厳重に処罰されますので絶対に真似しないでください。
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第9話 男には譲れないものがある
光一「博士? 急に呼び出してなんだよ?」
咲希にいたずらしてからもう一ヶ月たった。ゲイシーの人形は依然として夜徘徊している。それに加えて騎士っぽい何かとも戦った。人形も騎士も能力無しでは話にならないほど強い。能力使っても素手だとなかなか倒れてくれない。大剣でも一撃では倒せない。
博士「最近電波障害が激しいんじゃ」
光一「そういえばそうだな」
人形とか騎士とか博士が言うのめんどいんじゃ! とか言い出したので名称は異形種と名付けた。異形種は目立った行動はしない。俺が攻撃すると反撃してくるといった具合だ。それに加え俺がゲイシーと戦った翌日から世界規模の電波障害が起きているらしい。テレビ観ないし特に携帯電話も使わねぇから気にしなかったわ。保育園では咲希が電波障害で通話切れるとかなんとか言ってたな。途中から聞いてねぇからわかんねぇな。
光一「あれって一瞬だろ? 気にするのことか?」
博士「全世界同一タイミングじゃぞ?光一や。なにか良からぬことが起きるやもしれん」
光一「覚悟しておくよ」
嫌なこととか起こってほしくなんてないんだが。
男には譲れないものがある2
保育園に行く途中、咲希とあったので一緒に仕事に向かうことになった。咲希は俺の家を知っているが俺は知らない。咲希が俺の家を知っているのは俺が不覚にも咲希にストーカーされたからだ。家に押し掛けてきて専門学校の友達が結婚するとかでビデオレター撮るからあがらせて! と強引に迫られて友達でもないやつの結婚式を祝う発言を求められた。いやなんて言うか咲希は俺の家知ってるくせに俺は咲希の家知らないっていうのが不公平だなぁーって思っただけ。
咲希「るーんるーん」
光一「なぁ二十歳越えてるのにるーんるーんとか声に出して歩くのやめてくれない? めっちゃ恥ずかしいだろ」
咲希「私と一緒に歩くのが恥ずかしいって!?」
光一「いやそういうわけじゃねぇけど」
たわいもない会話してると目の前にカップルがこっちに歩いてきた。そして男のほうが喋りかけてきた。
男「ちょっとそこのお前。なに咲希の横歩いてんの?」
咲希「優人じゃん! 久しぶり!」
男「咲希さ? 誰とも付き合わないんじゃなかったの? 俺を振る口実だったわけ?」
咲希「……」
明らかに咲希が困った顔をしている。
光一「ユウトだっけ? 咲希さんめっちゃ困った顔してるぜ? 女の子困らせるの良くないんじゃないのか? 隣にいる女の子暇してるぜ?」
助け船を出したつもりだ。俺は気が利かないから珍しい。
ユウト「こいつは遊びだよ」
おい。こいつ今なんていった。
女「ひどい!優人!ねぇ冗談だよね?」
ユウト「なわけないだろ? 消えろブス」
こいつ!
女「あっ……ひぐっ……あああああああ」
女は泣きながら去っていった。
光一「お前さユウトって言ったな? 字で書くと優しいに人か?」
ユウト「そうだよ? 優しいに人で優人」
こんなやつがいるのが許せない。俺だけか?
光一「お前さ完全に名前負けしてるぜ。くずやろう」
ユウト「ケンカ売ってるの? 買うよ?」
俺にもし能力が無くても。
光一「売ってるに決まってるだろうが!」
頭に血が上っている。水をかけるように咲希が口を挟んだ。
咲希「こうちゃんだめ!ユウトは運動神経抜群でしかも頭もいいし金もちだし……勝てないよぉ」
水をさされた気しかしなかった。
光一「男のケンカに女が口挟んだらダメなんだぜ。知らなかったのか?」
ユウト「橋の下っていったらわかるな? 18時だ。逃げるなよ」
光一「話がわかるようで結構だ」
無言で通りすぎる。咲希とどんな関係にあったかは知らないが俺はあいつが許せない。能力を使って軽く小突いてやればいいだろう。
男には譲れないものがある3
保育園の仕事時間だ。今は自由遊びの時間。
幸一「今日はお絵かきして遊ぼうぜ! そこのアホなお姉ちゃんと天才の俺の似顔絵描いてや!」
自由遊びの時間は大切だ。この遊びの時間を通して園児達の成長を見なくてはならない。基本的には自由遊びの名の通り好きな遊びをしてもらう。けど俺は遊びを指定することがある。楽しむのは大前提として知らない遊びをし感心も増やしていかなければならない。遊びは自己表現を増やせるし遊びだって学びだ。園児達のケンカや苛めの目を摘むのは大変だけどな。安全教育を徹底しなければ。
そんな事を考えていても朝の事を思い出すと苛立ちがつのる。笑顔を園児達に!
園児(男)「兄ちゃんなんかニコニコちがくね」
咲希「キモいね~」
表情筋鍛えなきゃな……。
光一「俺の顔のことはどうでもいいの! さー似顔絵やるぞー!」
園児達「おー!」
ノリが良くて助かる。子供は無邪気だ。最初から悪い子なんていないと思う。親、先生、友達そういう様々な影響によって変わっていくんだ。環境が性格を作るとはあながち間違いじゃないと俺は思う。
男には譲れないものがある4
似顔絵遊びが始まって数分たった。
光一「そろそろみんな描き終わったんじゃないかな? 咲希! 見てまわろうぜ」
さぁーてイケメンに描けてるかな~?
咲希「いいよ。いこっ!」
子供の描く絵で心理状態がわかるらしい。似顔絵はどうなんだろうか。まず一人目。俺を毎日カッコいいと言ってくれるあきくんからだ。
光一「めっちゃうまく描けてるじゃん! 俺がただの金髪じゃなくて色素が抜けた白っぽい金髪なところがいい! ただの金髪はギラギラしてて俺も嫌だからなぁー。顔もイケメンだ。 ピアスもキレイに描けてる! 将来が画家さんかな?」
園児の絵あなどるべからずだな。俺より上手いもん。
咲希「こうちゃんこんなイケメンじゃないし。この絵のこうちゃんホストみたいで1割り増しチャラ男だし」
失礼な! てか1割増してホストみたいとかどうなんだろうか。チャラ男じゃないのに……。
心理状態ね。俺のことよく見てくれてるってことかな。素直に嬉しいぜ。
次は咲希のことが好きな女の子だ。まきちゃんの絵はどんなのかな?
光一「あははははははは! ホラー映画に出てくる女みたいだ! これはツボったわ」
あっちなみにツボるの意味は笑いのツボにハマるということらしい。俺もなにいってるかわからん。
まきちゃん「咲希お姉ちゃんはいつも髪後ろでまとめてるでしょ? おろしたの描いてみたの」
ポニーテールとか後ろまとめてない姿を想像して描いたみたいだ。きっと見たいんだろうな。
光一「その髪の後ろについてるシュシュだっけか? とってあげれば? 」
咲希「これはだめ! 若者っぽく後ろでまとめてるの~。おろしたらキレイ系に見えるかもでしょ? 間違えたら老けて見えるかも」
光一「しらん」
咲希「ひどーい! とにかくダメなの!」
めんどくせぇー。シカトだ。次行こう。
俺にモテの極意を聞いてきたマセガキことしゅんくんの見てみよう。
光一「棒人間が二人……。なんじゃこりゃ? 一人なんか倒れて泣いてる? のか?」
さっきのもそうだが想像して描いた。似顔絵じゃねぇだろって思うけど子供の絵だ。それは許そう。棒人間はあんまりだろうに。
光一「しゅんくん? それなに?」
聞くしかないよな。
しゅんくん「咲希が光一お兄ちゃんに告白してフラれて泣いてるの。滑稽でしょ?」
鬼かこいつは。
咲希「わわわわわわわわたしは! こうちゃんなんかに告白なんてしない!」
キョドってる……。挙動不審の略だ。
光一「子供の描く絵だぞ? そんな慌てなくてもいいだろ。それと地味に傷付くからやめて」
なんかとか失礼だし。勢いで言うにしても言葉選べよ。
光一「いや~しゅんくん? フルとかフラれるとかの絵を描くのは自由だよ。でもな女を泣かせるやつは男じゃねぇよ。気をつけてね? そんな大人になっちゃダメだ。」
これも学びだ。悪い大人にならないように俺がしっかり教えていかなくちゃならないんだ。
咲希「そんな大人になっちゃダメね~。そんなこうちゃんは良い大人? 専門学校の時、友達作ろうとしなかったじゃん。」
光一「うっ……。専門学校時代はまだ18~19歳の話だろ? まだ子供だ。」
咲希「物は言い様だよねー。口が達者なことで」
嫌味ったらしく言ってくるな~。しょうがないじゃないか。能力があるんだからな。力加減ミスったら大変な事になってしまう。
男には譲れないものがある5
今日の保育園も楽しかった。仕事が楽しいってのは大人の世界じゃかなり珍しいほうらしい。まぁ保母さんは給料がめっちゃ少ないだがな。俺には博士の加護があるから安心だけど。
咲希「こうちゃん! また明日~」
光一「はいはい。じゃあな」
咲希が仕事を終えて帰っていく。朝のことは忘れたのか普通である。20歳越えて天然ってのはどうなんだろうか。
給料が少ないか。咲希はまともに暮らせているのだろうか。
光一「今度何か奢ってやるか」
声「咲希にか? 優しいねー」
光一「うるせぇよ」
ピース「これからケンカするっぽ? 良くないと思うっぴー」
ぽやらぴやらなんなのこいつ。
光一「男にはな譲れないものがあるんだよ」
声「昔っからケンカなんかしなかったくせによくいうぜ。見た目やら無愛想やらで何回も絡まれてボコられてるくせによー」
そうなんだよな。争い事なんて本来避けるべきだ。
光一「何回も死ぬかと思ったさ。でも能力で痛みは緩和されるだろ? 気絶して博士の元で治療受ければなんとかなっただろ? でも『この前のお返しにきたぜ』とか俺をボコっておいて大勢でくるやつらはやめてほしかったな」
声「あれは俺もおかしいと思ってた。なんかしたのか?」
光一「してるわけないだろ」
世の中わかんないことだらけだ。特に俺だけって話でもないだろう。
ピース「ケンカしてこなかったっぴ? 男には譲れないものがあるっぴねー。 そんなに襲われてるなら今回が初めてって流石におかしくないっぴか?」
だよな。やっぱそう思うよな。
光一「今回は特別なんだよ。俺だけがあの光景をみたならこうはならなかった。だけどな。咲希の目の前であんなことするのは許せねぇんだよ」
俺が園児にいろいろ教えるように。咲希にもあんな大人になってほしくなかった。咲希は良い子だと思う。だって唯一の友達なんだから。俺の友達になろうだなんて物好きなんだから。
光一「大人に何か教えたいってのは偽善かもしれねぇな。なんてつぶやいてみる」
ピース「僕はいつでも呟いてるぴー!」
あーうるさい。
光一「勝手にさえずってろよ。それともっと鳥なら可愛く鳴け」
さえずりの略である。ちなみにさえずりとつぶやきは同意語で鳥の鳴き声だ。
ピース「可愛くなくって難しいっぽ」
可愛くなく……ね。朝のあれは悲痛の泣き声だろう。
光一「許せるはずがねぇだろうが!」
ピース「なんかキレてるぴー!」
ぶちギレだこの野郎!
男には譲れないものがある6
少し予定より速く橋の下につきそうだ。人が来ないな。この町は小さい。橋と言ったらここしかないだろう。橋の下を見ると俺よりも速くユウトとかいうやつがいた。心の中でも優人と呼ぶには至らないクズ野郎だ。
ユウト「速いね。僕とそんなにケンカがしたかったのかい?」
舐めくさったような声。
光一「ああそうだよ。俺がこんな暴力的な性格だったとは俺自身でも驚きを隠せないな」
一応能力の痛覚緩和で先手を打たせるか。ケンカは正当防衛にしなければな。誰が見ているともわからない。この国ではケンカは先に手を出したやつが悪いと言われるからだ。
光一「さっさと始めようぜ。先手を打たせてやる。なに大人の余裕ってやつだよ。お前の一撃なんて大したもんじゃねぇだろ? そら来いよ? どこでもいいぜ?」
わざと挑発する。頭に血をのぼらせて正当防衛の四文字を忘れさせるためだ。
ユウト「舐めてるのかお前? 咲希から僕が運動神経抜群だって聞かなかったのか? お前なんて一撃で沈めてあげるよぉぉぉぉぉ!」
ユウトがこちらに向かって走ってくる。俺は構えなんてものはしない。守りなんていらないだろう。
ユウトが俺の目の前で足を止め殴る体制に入った。大きく体を横に振りかぶって拳を強く握りしめている。みぞうち狙いか。常人なら確かに一撃もあり得るだろう。だが俺は少し異常人だからな。
ユウト「ふっ!」
ユウトの拳が俺の腹にめり込む。んっ? めり込む?
光一「ぐはっ!」
俺の浮いた。痛い。この力は……。俺と同じ能力だっていうのか!?
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